2022.03.28
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匸P　　コーヒーブレイク　

　　A RUSSIAN DIARY,2007
　　ロシアン・ダイアリー
　　　　　暗殺された女性記者の取材手帳

　　　　　Анна Степановна Политковская
　　　　 アンナ・ポリトコフスカヤ著　 　　　　　　　NHK出版　2007.06.30
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　アンナ・ポリトコフスカヤ(1958-2006)さんは、「ノーヴァヤ・ガゼータ」評論員
として、48歳で命を断たれるまで、プーチン大統領と、彼の周辺で甘い汁を吸い
続けるロシア要人たちの数々の不正を暴き出し、容赦なく批判し続けた。
　彼女が凶弾に倒れた2006年10月7日は、ウラジーミル・プーチン(1952-）の
誕生日であった。本書は残された日記をもとに、翌年イギリスで出版された。
　日記には、多くの人びとを密着取材した生の情報が満載されていた。
　◀記号に続く文章は、後日判明した事件の結末を、本人が書き足した部分だ。　
　ポロニウム210を盛られた元FSB職員リトビネンコ(1962-2006)は、死の直前、痛々
しい姿でプーチンを告発したが「何も起こらなかった」
　「何も起こらなかった」。筆者が何度も日記に刻んだ悲痛なフレーズだ。
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　第一部　ロシア議会民主制の死　2003年12月から2004年3月まで
　2003年12月7日に始まった下院議員選挙は、八百長選挙であった。
　自分たちが実際に投票したはずの候補の票が全く伸びず、実態と乖離した開票結果が
次々と報じられた。サンクトプテルブルグのある投票所では「全員支持しない」を
選んだ票が10%もあった。筆者は各地方で票が「創出」された実態を確認した。
　「創出」された票によって統一ロシアの候補が当選し、民主派の有力者が落選した。
　プーチンの与党・ロシア統一党は、地すべり的に議席を確保し、ロシア憲法改正が
可能な議席数を達成した。当選した野党の何人かもロシア統一党に鞍替えした。
　選挙期間中、おぞましいことに、反体制派候補者の事務所に、人の耳と心臓を
入れたビニール袋が送り届けられる事件が２度も起きていた。
　殺人、脅迫、有力候補の買収など、ありとあらゆる妨害が行われ、リベラル派や、
民主派の有力候補が撤退した。こうした選挙妨害は大統領選でも実行された。
　早朝から選挙結果を報じた「言論の自由」(討論番組)では、若者が投票しなかった
のが民主派大敗の原因であり、イワン雷帝やスターリンがロシア人の好みなんだと
いった解説がなされ、夜まで続いた番組は通夜さながらの陰気さであった。
　この番組はまもなく親会社のNTVが放送中止にした。プーチンが「政治に負けた
やつのトークショーなんぞ誰が観るものか」と発言したからだった。
　筆者は、この選挙を「ロシアの死」と書き記している。
　立法と行政機関が癒着し、国民は選挙結果を容認し、誰も異議を唱えなかった。
◇12月9日の朝、下院の向かいにあるショッピングセンターで、ひとりの女性が
自爆死した。隣にいた中国人旅行者の首が長いあいだアスファルトの上にころがって
いた。警察はしばらく遠巻きに様子を見るばかりであった。
◇翌日は国際人権デーであった。この事件のコメントはほとんど聞かれなかった。
　プーチンは擬態がうまい。この日集められた人権活動家を前にして、あまたの人権
活動家と同意見であるかのように振る舞った。会合の途中、ある参加者はプーチンが
治安関係者より自分たちを理解してくれていると実際にもらした。
　プーチンは「それは私が根っからの民主派だからですよ」と臆面もなく答えた。
◇12月20日、チェーカー職員の祝日。OGPU-NKVD-KGB-FSBは、これまで何百万人の命を
奪った組織だというのに血塗られたチェーカーの系譜が86年続いたことになる。
　プーチンは大統領になってからも「秘密警察の予備リストに名を連ねている」と
大っぴらに認めている。ロシアはそんな国になってしまった。
◇下院選の公式な最終結果が出た。統一ロシアが120議席、共産党は40議席、自由
民主党は36議席だった。翌日から各党は大統領候補を擁立できる。
◇12月31日、TV番組「言論の自由」の視聴者が「今年のロシア人」を選んだ。
　2003年に量子力学の功績でノーベル賞を受賞したギンズブルグが一位で、統一
ロシアのスルコフは最下位だった。番組の最後に発表された世論調査の結果でも、
ギンズブルグが首位で、スルコフは最下位だった。
　しかし国営テレビ局の人気投票結果は、第一位プーチン、第二位ショイグ、第三位
グルィズロフだった。ほら、ね！　こうして2003年は暮れていった。
◇2004年1月16日、誘拐されたチェチェンの人権運動家アスラン・ダヴレトゥカエフの
遺体が見つかった。拷問のあとがあり、後頭部を撃ち抜かれていた。
◇ノヴォシビルスク飛行場に徴兵された新兵が到着した。暖房のない倉庫に24時間も
詰め込まれ、食事もなく、移送に際しては零下30度の厳寒のなか、貨物飛行機で運ばれ、
空港でも軽装のまま零下25度の外気の中、4時間立たたされた。そのためおよそ百名が
病気にかかり一部は重傷になったが、担当将校らは無視した。
　看護施設もなく、軍医の手元には10年前に使用期限が切れた抗生物質しか無かった。
　使い捨ての注射器さえない。衛生兵はしかたなく咳止めを与えた。
　この事件を知った大統領は、人権を守るポーズを示し22人の将軍を尋問に付した。
　こんなことは今回が初めてだが、再選後も同じ仮面をつけたままでいるだろうか。
　ロシアでは、もう人びとが何かを決める余地は残されていない。
　「ご主人様がお帰りになるまで待つとしよう。お帰りになれば、どうすればいいか
みんな教えてくださる」これがロシア人好みなのだ。となればプーチンは遠からず
人権擁護家の仮面をかなぐり捨てるだろう。もうすぐその必要がなくなるからだ。
◇2月19日、テレビ討論会で、野党のハカマダが、セルゲイ・ミロノフに質問した。
　ハカマダ「どうしてテロが次々起こったあとでグルィズロフは解任されないで
昇進したのですか」
　ミロノフ「私はプーチンの代理人じゃない」
　ハカマダ「では、国家権力の三番目の地位にいる方としてお答えください」
　それでもミロノフは答えなかった。テレビ討論会はこんな状態なのだ。
◇ヴォロネジ医科大学1年生の外国人留学生が17か所を刺されて死亡した。犯人は
（ロシア人のロシアを唱える右翼団体ナーシに共鳴する）スキンヘッドだった。
　近年ヴォロネジで殺された外国人留学生は、これで7人になった。
◇3月14日、大統領選挙の投票所から出たところで、記者団に取り囲まれたボリス・
グルィズロフ下院議長が語った。「今日選挙運動をするのは禁じられています。
　ですが、あなた方の好奇心を満たすために申しましょう。私は今日のこの雲ひとつ
ない青空のように明確な政策に投票したのです」
◇当局は、選挙期間中、選挙違反は1件あっただけでしたと国民に報告した。
　投票所の近くに停車したバスで、ウォッカが売られていた件だという。
　しかし、地方では増産された不正な投票用紙が、大量に投函されていた。
　ヴォロネジでは、不在者投票しないと入院させないという法律を作り、患者全員に
不在者投票を強制した。小児用病棟でも不在者投票をしない母親は、子どもに会わせ
ないと告げられた。プーチンの子分が支配するバシルコルトスタン共和国では92%、
ダゲスタンでは94%、カバルダ・バルカルでは96%、イングーシでは98%が、プーチン
票であった。子分同士でプーチンへの忠誠心を競い合っている。
◇3月15日の公式発表では、プーチン71.22%、ハカマダ3.85%、ハリトノフ13.74%、
グラジエフ4.11%、マルィシキン2.23%、ミロノフ0.76%だった。

　第二部　ロシア流、偉大なる政治的鬱状態　2004年4月から12月まで
　チェチェンに隣接するイングーシ共和国の首都マズラニで、プーチンの子飼いで、
2002年に大統領に選出されたムラート・ジャジコフを乗せたメルセデスが爆破された。
　彼は、特別装備のメルセデスで一命をとりとめたが事件の真相は不明のままだ。
　FSB将校ジャジコフの大統領選出が公正であったとは誰も思っていないが、法的に
訴える道は閉ざされていた。モスクワの裁判所がプーチンに対する訴えを受理しない
ように、イングーシの裁判所も、ジャジコフに対する提訴を受理しない。
　その結果、怒りの発散場所がなくなり、テロリズムが爆発する。
　身内同士の殺し合いとの見方もあったが、もうひとつの可能性も考えられる。
　近年イングーシでもチェチェンと同じような誘拐事件が多発しており、これに関係
する犯罪の連鎖が疑われた。すでに、40人もの人びとが正体不明の覆面をした男たち
に捕らえられ、ナンバープレートのない車でいずこかへ連れ去られていた。
　被害者の身内は被害届を出したが、ジャジコフは一向に捜査に着手しない。
　国家ぐるみで行われている不法行為ではないかとの疑いは断固否定し、誘拐事件に
関する報道は中止するよう命じていた。
◇マズラニのホテルに滞在していた筆者の部屋に、住民が列をなして訪ねてきた。
　彼らは私刑の被害者か、対テロ作戦の巻き添えを食らった人びとだった。
◇3月16日、息子のチムールが誘拐されニワトリのようにひねり殺されました。
◇3月2日、正体不明の覆面兵が若者を射殺している現場に出くわし、叫びをあげると
こちらに発砲してきて、24歳の娘マディナ・ハズビエフが射殺され、夫も私も重傷を
負いました。◀本件は後日筆者の調査でイングーシ連邦軍が発砲したものと判明した。
　定期的にイングーシを荒らすチェチェン野戦司令部のアフマド・バスヌカエフを
暗殺する作戦を実施中、運悪くマディナさん一家が遭遇したためだった。
◇続いてムツォリゴフ一家が入ってきた。ここ数か月で誘拐された40人のリストを
筆者に手渡した。これより少し短いリストを、2月に検察庁のラシード・オズドエフに
手渡したが、彼は3月11日に大統領公邸前で目撃されたのを最後に、24時間後、防水
シートに覆われた死体で発見されていた。恐ろしい話しだった。
◇4月16日、この事件の犯行当事者から、次のような告白書簡が届き、公開された。
　《FSBイングーシ支局長のコリャコフは、FSB長官パトルシェフとプーチンから
直々にその地位を与えられた非常に恐ろしい人物です。私は同僚と、35人くらいを
殺し50人以上を障害者にしました。
　私は最後の作戦で、地元の検察官ラシード・オズドエフをこの世から抹殺するのに
手を貸しました。彼はコリャコフにとって都合の悪い情報を持っていたのです。
　私はその検察官の手足を全部折りました。その夜、コリャコフは彼を始末するよう
ほかの者に命じました。私はこの作戦でそれ相応の報酬を得ています。
　私は罪深い人間です。わが身を恥じています。これが真実です。(署名)》
　このぞっとするような書簡が公開されても、何も起こらなかった。人びとは立ち
上がることなく、その沈黙によって、検察がすべてを握りつぶすことを許した。　
　日記は、このあとも殺し屋が至近距離で政治家を殺す事件などを記述している。
◇6月19日、サンクトペテルブルグで、ニコライ・ギレンコが自宅で射殺された。
　ファシスト団体の裁判法廷に召還され、学者として専門的立場で彼等が危険な
過激派であることを認定してきた著名な証人であった。2003年に人種差別がからんだ
犯罪は72件あり、そのうち裁判まで持ち込めたのは11件に過ぎないが、彼が証人に
立った法廷では、いつも実刑判決が言い渡されていた。ネオナチはギレンコ殺害を
隠すこともしなかった。事件以後、法廷で証人に立つ学者は皆無に等しくなった。
　またしても抗議の声はまるで上がらない。ネオナチは「ロシア人民の敵リスト」を
ウェブサイトに掲載した。ギレンコのように敵は抹殺せよと極右が宣言していると
いうのに、これを載せたサイト運営者は刑事責任を逃れている。
　かくいう私もやはりリストに名が挙がっているのだがと、筆者は付記する。
◇6月21日の夜、イングーシの武装勢力が決起した。ライフル銃の射撃音、アッラー・
アクバル！と大勢が叫ぶ声が、現地からの電話の向こうで聞こえた。
　筆者はすぐに法執行機関に助けを求めたが、みんな携帯をオフにして就寝中だった。
　明け方に武装勢力が逃亡しはじめて、やっと兵士が姿を現し、捜査を開始すると
いったありさまだった。当局はハザーエフ派は50人もいないと言っていたのに、この夜
少なくとも200人を超える武装勢力がイングーシを包囲していた。殺害されたのは
イングーシ内務省、市の内務局、民警、検察官やFSB職員など、治安機関の中堅職位
が大半であった。イングーシには5千人を超える民警、チェチェンには1万4千人の
民警がおり、何千ものロシア兵も、予備役兵もいたが、彼らを制止できなかった。
　とばっちりで民間人も百人近くが命を失った。5年ものテロ対策は一体何だったのか。
◇夜のあいだ、ジャジコフは変装して逃げていた。男の風上にも置けぬ行為だ。
◇ロシア政府はチェチェン戦争について長年にわたって嘘をつき通し、モスクワの
ノルド・オストから何も学ばなかった。ベスランの学校占領でも多くがイングーシ人
だった。政府機関は壁を爆破して突入し、多くの子どもたちが犠牲になった。
◇12月12日、権力に取り込まれていく「全国市民会議」、凋落著しい民主派の理念の
乏しさを前にして、筆者は、すべての母の願いを代表するような提案をしている。
　「ポジティブな理念がないとすれば、何を基盤にすればいいのだろう。理念は
いくらでも転がっているのに、ロシア人の平均寿命は58歳6カ月。
　理念の柱を『生き延びよう！　少なくとも70歳まで生きられる社会にしよう！』と
するのはどうだろう」　

　第三部　ロシアの憂鬱な冬と春　2005年1月から8月まで　
　1991年に旧ソ連邦から独立した共和国で、バラ革命、オレンジ革命、チューリップ
革命が起き、この勢いはチェチェンにも広がっていた。
　プーチンは、2004年の当選後、ロシアの選挙制度を全面的に変革した。
　下院選において個々の候補者に投票する権利は消滅し、比例代表制で政党に投票する
制度に変更された。抗議デモはひとつもなく、ヨーロッパ諸国も、新制度を追認した。
◇5月28日、有権者に関わりなく大統領府が権力を持ち続けられる法改正があった。
１．政党の預託金が200万ドルに引き上げられた。
２．選挙を有効にする最低投票率の制度が地方では撤廃された。
３．遠隔地投票、移動投票用の投票箱の設置数が無制限になった。
４．「全員に反対」の項目をなくし、この票が10%を超えると再選挙になる制度も
廃止された。このところ20%近くの人が「全員に反対」票を投じていた。
５．社会団体による選挙監視員制度が廃止され、政党に任命された監視員のみとなった。
　地方では投票所を無制限に設置可能となり、事前に不正な投票用紙を刷りまくり、
架空の名前を記入した票を大量に作成して投票できた。その結果が72%の支持率となる。
　サンクトペテルブルグの投票所では、住民の人数を超える投票数が出る始末だった。
◇2022年3月8日の国際女性デーで、プーチン大統領が女性に囲まれ熱弁していた。
　17年前の2005年3月8日、TVでは、プーチンに逆らったチェチェンの元大統領の裸の
死体が一日中放映されていた。イチケリン・チェチェン共和国の第二代大統領・
アスラン・マスハードフの哀れな姿であった。今もチェチェンを支配する狂暴な首長、
ラムザン・カディーロフがスクリーンに登場し、この殺害は国際女性デーの3月8日に
ちなんで女性に捧げられた贈り物であると演説した。
　筆者はこのカディーロフのアジトに入り、本人と取り巻きを取材したことがある。
　取材の帰路、殺されるものと覚悟したが、運転席の男が身の上話しを始めた。
　私は助かった、みんな自分を知って欲しいのだと感じ、涙がこぼれたと記している。
　先日の3月8日、プーチンの周りに集った女性たちは、筆者が2005年に観せられた
TV映像のことや、プーチンの実像を知らない。知ればとても平気ではいられない。
　マスハードフの暗殺は、同胞の密告でロシアFSBの特殊部隊が実行したものだった。
　FSBは、マスハードフの居所情報に1000万ドルを支払ったとまで公表している。
　2022年3月20日、ウクライナのマリウポリに、ラムザン・カディーロフが現れた。
　彼の準軍が子供を含む1200人超のウクライナ人を拉致していったとの報道であった。
　頭が空っぽで狂暴な彼を知るものにはぞっとする出来事だ。
◇かつてチェチェン化したチェチェンで、若者たちが「山に入る」ことがあった。
　「山に入る」とは若者がテロリストと認定されたバサーエフやマスハードフの
仲間に加わることを意味する。ラムザンが支配する新チェチェンの強盗団や、残虐な
所業の続くロシア連邦軍の餌食になりたくないための捨て身の行動だった。
　ある女性の息子が山に入った。女性は興奮し、息子と同じ考えだと筆者に語った。
　「あいつらが夜にやって来て子どもをどこか知らないところへ引きずっていくのを
ただ待つよりは、何かしたほうがましでしょう。ロシア連邦軍は占領軍さながらだし、
カディーロフの軍隊は残虐な操り人形です。私たちはこのことを表立っては口にしま
せんが、子どもから大人までみな知っています」

　筆者は1980年に国立モスクワ大学ジャーナリズム学科を卒業し、1999年夏以来、
チェチェンに通い、戦地の人々の声を伝えてきた。北オセチア・イングーシ共和国の
ベスランで起きた学校占拠事件の際は、現地に向かう途上、機内で何者かに毒を
盛られ一時重態に陥った。そのためベスランで起きていた事態は取材できなかった。
　チェチェン人武装勢力が学校を占拠し、それを制圧するためにロシア正規軍が
学校の壁を爆破し突撃し人質を解放した事件だったが、プーチンは、真相を究明する
と即座に遺族に約束した。だが1年後も何も解明されず遺族の求めにも応じなかった。
　本書には、モスクワだけでなく、カスピ海沿岸の町アストラハンでの放火による
地上げなど、神経がまいるような出来事が日々書かれている。
　2016年までは、私はもういないかもしれないと綴る筆者の巻末の言葉が重い。
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　どうせ、もぎ取られ、食べられるキノコなら、葉っぱの陰で隠れ通すのはよそう。


(用語解説）
【イリーナ・ハカマダ】
　起業家。2004年3月の大統領選挙候補。自由ロシア党党首。
【ムラート・ジャジコフ】
　チェチェンと隣接し深い民族的つながりを持つイングーシ共和国の大統領。
　1980年代はKGB職員。2004年にFSBの支援で大統領に就任。
【ラムザン・カディーロフ】
　1994年から96年の第一次チェチェン戦争でロシアと戦った。第二次チェチェン
戦争(1999～現在)ではロシア側についた。父親のアフマト・ハジ・カディーロフの
暗殺後、2006年3月、チェチェンの首相に就任。準軍隊(カディロフィ)を率いる。
　2007年4月、プーチンの支持の下、大統領に就任。
【アフメド・ザカーエフ】
　イチケリア・チェチェン共和国の分離独立派の外相。第一次チェチェン戦争における
抵抗勢力の英雄。ロシア軍撤退につながった1996年の和平会議でチェチェン代表を
務めた。副首相を経て外相に就任。第二次チェチェン戦争の初めに負傷して2000年に
チェチェンを離れると、西ヨーロッパにおけるマスハードフ政権の特使となった。
　2003年にイギリスに政治亡命を許され、ロンドンに在住。
【ウラジスラフ・スルコフ】
　クレムリンの首席イデオローグにして黒幕。1990年代にはメナチップ銀行の重役を
務めた。ロシア公共テレビ(ORT)の広報担当(1998-99)、プーチンの大統領府副長官。
片親がチェチェン人であることか、クレムリンのなかでは、チェチェン化政策
(暴力応酬政策）の主要な賛同者で、ラムザン・カディーロフの後ろ楯と見られる。
【セルゲイ・ショイグ】
　統一ロシア党の政治家。プーチン配下でモスクワ州知事から2012年より国防大臣。
【アナトーリー・チュバイス】
　1994年から96年にかけてエリツィン政権下で副首相を務め、民営化と新興財閥誕生を
促す自由市場改革「ショック療法」に関与した。右派連合の共同主宰者。
【シャミーリ・バサーエフ】
　1994年、ロシアがチェチェンを侵攻した際にチェチェンゲリラを率いた野戦司令官。
　ロシア軍の爆撃により家族11人を失ってから非情な戦士となった。ノルド・オスト
人質事件とベスランの第一学校人質事件の首謀者と目されている。両事件ともいずれも
ロシア政府の手によって血塗られた最後を迎えた。2006年に爆死。
【セルゲイ・ミロノフ】
　2001年からロシア議会連邦会議(上院)の議長。2003年からはロシア生活党の党首。
　同党は2006年に、ロージナ党およびロシア年金党と統合してロシア正義党となり、
ミロノフが新党の党首に就任した。親プーチン派。
【ミハイル・ホドロコフスキー】
　ロシアの新興財閥で、メナチップ銀行とユコス石油を設立した。民主派の諸党首を
支持し、透明な西欧式のビジネス手法の導入を提案した。プーチン政権と対立し、
2003年に脱税容疑で逮捕されて9年の実刑を言い渡された。現在はロンドンに亡命。
【アスラン・マスハードフ】
　第一次チェチェン戦争におけるチェチェン独立派の軍事的指導者。1997年に大統領に
選出され、クレムリンのエリツィンとの和平条約調印にこぎ着けたが、非宗教的な
民族主義者とイスラム原理主義者との分裂を防げなかった。チェチェン紛争を平和裏に
解決しようと交渉中、2005年にFSBによって殺害された。遺体は埋葬のために遺族に
戻されることはなかった。

【オレンジ革命】
　親モスクワ当局者による大規模な大統領選の不正が引き金となり、2004年末から
2005年初めにウクライナで勃発した。2004年12月に行われた再選挙では、ヴィクトル・
ユシチェンコが勝利を収めた。ユシチェンコは最初の選挙直前に毒を盛られている。
　ヴィクトル・ヤヌコヴィチの44%に対し、彼は52%の得票率を挙げた。
【バラ革命】
　2003年11月の議会選挙の大々的な不正に反対して、2003年末から2004年の初めに
かけてグルジア(現ジョージア）で起きた一連の抗議行動。分離問題や後半な腐敗に
対処しきれなかったエドゥアルド・シェワルナゼ大統領は、選挙でミハイル・サーカ
シヴィリに敗れた。シェワルナゼは勝利を主張したが、議会がサーカシヴィリの支持者
によって占拠されるにおよんで敗北を認めざるを得なかった。非暴力の象徴として
バラの花を掲げ、エリート軍部がサーカシヴィリの支持者側についた。2004年1月の
再選挙では、サーカシヴィリの政党が地すべり的勝利を収めた。
【チューリップ革命】
　キルギス共和国で2005年に不正な選挙と反対勢力の抑圧に抗議するチューリップ
革命が起きたが、新政権は腐敗と闘い、権力を分散させるという公約の実現に手間
取っている。(2007年現在）

【ダゲスタン】
　ロシアの最南端。北コーカサス山脈に位置する共和国。民族構成は多様。
【イングーシ】
　様々なスーフィ教団のスンニ派ムスリムが主に居住するロシア連邦内の共和国。
　チェチェン戦争を逃れてきた難民が多く住む。人口50万人のうち、77%がイングーシ
人、20%がチェチェン人、1.2%がロシア人。
【チェチェン】
　北コーカサス東部に位置し、主としてスンニ派のムスリムが居住する共和国。
　二度にわたるチェチェン戦争で潜在的な経済力は破壊され、おびただしい数の戦士
および市民の死者が出た。ロシア政府は復興のために2000年度より20億ドル以上
つぎこんだと主張しているが、ロシア経済監視シンクタンクは、そのうち目的どおり
に使われたのは3億5千万ドル以下としている。
【ウクライナ】
　1991年にモスクワから独立を宣言したが自由市場改革の実現に手間取っている。
　エネルギー供給をほぼロシアに頼り切りであるため、ロシアにこの点を政治的に
利用されている。4千6百万の人口のうち、78%はウクライナ人であり、17%かロシア人。
【パシコルトスタン共和国】
　南ウラル山脈および隣接する平野を領土の一部とするロシア連邦内の共和国。
　400万人の人口のうち、36%がロシア民族。29%がパシキール人、24%がタタール人。

【ワッハビズム、ワッハーブ派】
　サウジアラビア、カタール、イラク西部で主流のイスラム教。信仰と実践において
禁欲的、イスラム法厳格主義の立場を取る。第一次チェチェン戦争の終わりには
ロシア語を話すワッハーブ派のアラブ人が大量に押し寄せたため、ロシア政府はのちに
チェチェンをイスラム原理主義の拠点と主張することを得た。
【下院(国家会議)】
　エリツィン政権が発布した憲法に基づいて1993年にソビエト最高会議の後継機関と
なった。450名の選出議員から構成される。
【統一ロシア】
　ウラジーミル・プーチンを支持するためクレムリンによって2001年に創設された。
【CIS(独立国家共同体)】
　ソビエト社会主義共和国を引き継ぐ国際機関として1991年に設立された。
　バルト3国を除く旧ソ連を構成する共和国すべての緩やかな連合体。　
【ロシア連邦】
　1991年にソ連邦が崩壊して樹立された国家。ソ連の連邦構成共和国(ウクライナ、
ベラルーシなど独立した国々）は含まない。
【FSB(ロシア連邦保安局)】
　現在の国家保安機関。1995年、連邦防諜局の後継機関として設立。
【KGB (ソ連国家保安委員会)】
　ソビエトの秘密警察。ゴルバチョフに対するクーデターに関与し、1991年に連邦
防諜局に取って代わられた。
【OMON(民警の特殊作戦部隊）】
　1980年のモスクワ・オリンピックのテロ対策として、1979年に創設。以降、異動
鎮圧警察部隊として用いられるようになり、ロシア連邦内のいたるところで見られる
ようになった。
【右派連合】
　自由市場改革の実現に熱心で、プーチンによる人民の自由の剥奪を激しく批判する
小政党が集まって、1999年に創立したリベラル政党。2003年の下院選で4%の得票率と
公式に認定され、下院議席を失った。下院に議席を持つには5%の得票率が必要とされて
いる。これによりクレムリンは不正選挙を行っているという疑惑が広まる結果と
なった。